top of page

解消の“切り札”のはずが…続々「反対」 「来年4月には待機児童ゼロ」宣言した杉並区の対策は「快挙」か「拙速」か


東京都杉並区が来年4月に待機児童をゼロにすることを目指し、区内の公園や区民センター中庭、資材等置き場、職員住宅の寮など11カ所を認可保育園として整備する計画を発表したところ、反対の声が次々に上がっている。保育園の待機児童解消の切り札とも目された「公園」に、住民からなぜ反対の声が上がったのか。住民説明会に出席し、行政、住民の双方から話を聞いた。(三枝玄太郎)

 5月22日、杉並区下井草の井草地域区民センターには日が暮れるに従って、次々と住民が建物に入っていった。午後4時半に始まった説明会は同7時ごろには80人ほどが集まり、時折、怒声が飛ぶ激しいものとなった。

すぎなみ保育緊急事態宣言

 杉並区は3月、自転車集積所、区民会館など4カ所を認可保育所などに種別を変更し、当初整備計画(759人)に加え、320人をプラスした定員を確保、1100人規模の整備を実施すると発表。4月には、田中良杉並区長が「すぎなみ保育緊急事態宣言」を発し、28年4月時点で136人の杉並区内の待機児童を来年4月にはゼロにすると宣言した。

 ただ、緊急事態宣言後は、第2弾として区内の公園など11カ所を認可保育所や定期利用保育施設に変更することで、795人を確保。事業者からの開設提案も合わせて合計で1100人、第1弾と合わせて2000人を超える規模の施設整備を行うとした。

井草地域区民センターは建物の横に約1060平方メートルの中庭がある。ベンチなどが設置され、地元の祭りのほか、近隣の子供たちの遊び場として利用されてきた。ところが今回の緊急事態宣言で、公園を定員120人の保育園のために活用し、2階建ての園舎と敷地として使うことに。この決定が、住民らの反発につながったのだ。

保育園建設自体には反対しないが…

 5月22日の説明会では、区民生活部長、保健福祉部長ら幹部が居並ぶ席に向かってしばしばヤジや怒声が飛んだ。説明の際、高沢正則・保育施設部担当課長はたびたび頭を下げ、何度も「苦渋の決断」を強調した。

 「予想以上の未就学児童の急増、働く女性の増加で、このままでは来年4月には待機児童が500人を超えることになります」

 質疑応答で反対の署名を集めてきた地元の主婦が立ち上がった。そして、「私も保育活動に失敗し、仕事を辞めました。保育園建設自体には反対しません」と切り出した。「しかし、今回の11カ所のうち、5カ所が井草地区に集中しています。今年4月現在の待機児童は杉並区で136人。井草地区は11人に過ぎません。一母親として人の流れを心配しています」

区側は「1000平方メートル以上の敷地がないと、認可保育所が立てられない。何度もいろいろな現場に足を運び、ここに決まりました」と強調したが、「別の地区にある自転車集積所がかなり余裕がある。そちらを考えてはどうか」と住民からは対案が。ほかにも「今でもセンター周囲は騒音対策をしてくれないのに、これからどうなるのか」「私の家はここの近所だが、(説明会の)ポスティングをしてもらえなかった」「これだけ保育園を増やして保育士の手当てはどうするつもりなのか」「数字をきちんと示していただいて、なぜ井草地区なのか説明してほしい」などの不満や要望が出た。

「どこにも作れなくなる」

 区側は特区を申請しなかった理由について「申請に2~3年かかる。来年4月に待機児童をゼロにするのが区の目標。すでに既存施設を活用し、保育園を開設する対応はかなり取っている。杉並は進んでいる方です」と説明し、胸を張った。別の地区を具体的に提案した人に対しては「もう時間がない」という趣旨を返答。有坂幹朗保健福祉部長は「保育園に学区はない。相互に補完しなければいけない。中央線沿線には(保育園に適した)土地がなく、総論賛成各論反対では、どこにも(保育園が)作れなくなる」と理解を求めた。

結局、近く第2回目の説明会を行うことを有坂部長が提案し、予定を大幅に上回る3時間半にわたった説明会は終わった。

 地元住民によると、その後の説明会でも反対する住民は納得せず、6月中に業者を公募し、決定した上で、その業者を交えた第3回目の説明会を行う意向を区側は示している。保育園の新設そのものに反対の声はなかったが、井草地区に集中する理由と、事前に知らされなかった点を強調する声が多かった。

 計画が明らかになったのが4月、説明会が5月下旬~6月、整地が7~8月、8月には建設を開始し、来年1月に竣工というタイトなスケジュールのため、「近隣住民から初めて聞いた」という怨嗟の声が強いようだ。地主の中には「事前に聞かされていない」として反対に回った人もいたという。

入所希望者殺到に区側が慌てた?

 これまでの需要予測を上回る保育園入所希望者の殺到に慌てた区側が、通常ならすべき根回しや説得活動、事前の土地調査などを十分にやることができなかったために起きた結果ではないか、という感が否めない。事実、田中区長は今年5月11日付産経新聞に寄稿し、「保育所に入所を希望する保護者団体の方と先日お会いし、『後に続く女性のためにも自分が職場で頑張らなければ』と保育所に預けて働いている現状をうかがい、心を打たれた」と記している。

説明会では必ずこの産経新聞の記事を配布しており、今回の杉並区側の措置に、区長の強いリーダーシップがあるのは間違いないだろう。関係者によると、11予定地のうち、久我山東原公園(杉並区久我山)、向井公園(同区下井草)、井草地域区民センター中庭(同区下井草)の3カ所は特に反対運動が激しく、ほかにも一部、反対の声がある。

 同様の保育所対策については、文京区が礫川(れきせん)公園の一角にあった区立保育園の仮園舎を臨時の認可保育所として整備。国も昨年4月、都市公園法の規制を緩和し、公園内に保育所を作ることを認める国家戦略特区を導入した。世田谷、品川、荒川の3区が特区を使い、来春にも民間保育所を設置する予定だ。ただ、ほかの地域から目立った反対の声は聞こえてこない。文京区の担当者は「公園の一角に都営住宅があるが、特に反対の声はなかった」という。

ワイドショーでも報道

 これまでに杉並区内の保育園開設反対の署名は5000を超え、区議会の本会議でもこの件に関する質問が続々と出て、テレビのワイドショーで取り上げられるなど、全国的な注目を集める事態となっている。

一方で、杉並区を中心に活動する保育園の新設を訴えるグループが早急な保育園の整備を求めているほか、区側には激励の電話やメールが寄せられているという。

 3日には久我山地区の住民が「東原公園への保育施設建設計画」の見直しを求める陳情書を田中区長に提出。午後1時から3時半まで区長を交えて話し合いを行った。区は緊急性が必要だと理解を求めたが、住民側は東原公園を残すよう求め、平行線のままだ。

 陳情書は採択が決まり、5日の区議会で審議されることが決まった。杉並区の田中区長が掲げる待機児童ゼロ計画は、来年4月に向けて動き出している。


Featured Posts
Recent Posts
Archive
Search By Tags
まだタグはありません。
Follow Us
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
bottom of page